アパート・マンションの借り方 東京都編

「アパート・マンションの選び方」を読まれたことを前提で、アパート&マンションの借り方、賃貸契約と賃貸生活におけるアレコレを書いています。こちらも不動産屋での勤務経験をもとに書いています。

まず、借りたい物件を見つけたら不動産屋で申し込みをします。この時点で大家さんから「あなたには貸しません」と言われることもあります。理由は主に「家賃を払ってくれるか心配」というものです。

その場合は違う物件を当たるか、大家さんを納得させる材料を用意します。家賃を余裕で払える預金額を提示するのが効果的ですが、無い場合は信頼度の高い保証人をつけることです。

保証人が立てられないなら、Q&Aの「アプラス、日本セーフティーについて」をご覧ください。もしくは、UR賃貸、都営住宅、都民住宅、ルームシェアを検討してください。どれも無理な場合は、諦めてください。

ルームシェアはよくもめますので、個人的にはオススメしたくはありません。仲良し三人組、二人組がいましたが、仲が悪くなって返金された敷金の額でモメていました。元自衛隊の男二人のルームシェアは、特に問題なく長く続いていましたけども。似て非なるものに「コレクティブハウス」というものが存在します。気になる方は検索してみてください。

賃貸契約に必要なもの ~東京勤務・通学の方へ~

賃貸契約に必要なものは、住民票、印鑑証明(印鑑)、収入を証明するもの、身分証明書、お金などです。不動産屋によって用意してくださいというものに差はありますが、少なくとも印鑑とお金は必要です。家賃が銀行からの引き落としになっている物件の場合は口座が必要となります。隣に住んでいる大家さんに「今月分です」と言って家賃を渡す風景が漫画では多いですが、実際のところは振込が大半だと思いますし、大家さんの顔を見ることもない場合もあります。“隣に大家さんが住んでいると安心”という意見もありますが、鍵の紛失時等を考えれば良いかもしれませんが、大家さんによっては煩わしいほど干渉してくる人もいますので、人によるといったところでしょうか。

住民票はお住まいの市区町村の役所や出張所でお取りください。引っ越すことになるので、転出届も必要になるかと思います。国民年金・国民健康保険に加入している場合は、そちらの変更手続きも必要になりますので、詳しくは役所の方にご相談ください。印鑑証明を取るには印鑑登録をする必要がありますが、こちらも詳しいことは役所の方に聴いてください。形状の変わりやすい材質の印鑑や、摩滅しているものは登録できませんのでご注意ください。よく「実印」というカテゴリーで印鑑が売られていますが、戸籍上の姓名を彫刻した印鑑を登録申請して初めて「実印」と呼ばれます。

収入を証明するものは源泉徴収票や納税証明書など。身分証明書は提出を求められることは少ないと思いますが、住民票には顔写真がないので、本人の顔の確認を取りたいケースで要求される場合があります。お金はフリーレントでなければ初月の家賃、礼金、敷金、仲介手数料です。私が勤務していた東京都内 某所の場合、敷金・礼金は二ヶ月・二ヶ月が基準でした。敷金は預けるお金、礼金は大家さんにあげるお金です。戻ってこないのは礼金の方です。ここで気を付けたいのは、初月の家賃がいつから発生するのか、ということです。賃料発生が契約日からなのか、入居日なのか、という確認はしておくべきでしょう。申込日だとしたら、それはちょっと……な話です。契約もしてないのに、お金を取るんですか大家さん……と、「あんまりだよ」という顔をしてもいいです。

契約時に気を付けたいこと

契約では重要事項説明がされます。多くの人はボーッと聴いてしまいがちですが、文字通り重要なことを説明していますので、きちんと聞いて納得できないことは主張した方が良いです。不動産に関しては基本的にはゴネ得で、言わないよりは言った方が得をするケースが多いです。ただ、大家さんによっては値下げ交渉する人は面倒だからNGという人もいますし、不動産屋は細かいことを聴く人は嫌いです。仮に不利な契約をしてしまったとしても、消費者に一方的に不利な契約は、消費者契約法で後から覆すことが出来ます。

この重要事項説明は宅地建物取引主任者(旧資格名。現在は宅地建物取引士)の資格所有者が説明することになっています。俗にいう宅建を持っている人が説明する決まりですが、持っていない人が解説することが少なくありません。まぁ、誰が話しても内容は同じなんですけどね。不動産事務所には5人に1人の割合で専任の取引主任者(宅地建物取引主任者)が必要ですので、資格所有者がいない店舗は存在しないことになっています。また、契約書面には宅地建物取引主任者の記名押印が必要です。知っても得しないかもしれませんが、宅地建物取引の免許は国土交通大臣免許と都道府県知事免許があります。前者は事務所を2つ以上の都道府県に設置している場合に必要なもので、後者は1つの都道府県内に設置している場合のものです。

新居に移るにあたって火災保険に入る方は少なくないでしょう。これに入っておかないと、自分が原因で火災を起こした場合に大変なことになります。建物が全焼した場合の賠償金は唖然とする金額です。ただし、失火の場合は例外です。同じ火災でも地震が原因で起こった火災は、火災保険の対象外になります。地震が原因のものは、すべて地震保険の担当区分です。

ここからはオマケ的な内容ですが、不動産屋には引っ越し業者の割引券が置かれていることがあります。タダで貰えるので欲しかったら持って帰りましょう。この割引券には不動産屋の名前が印字されていて、お客さんが割引券を利用すると不動産屋にバックがある仕組みになっています。

鍵交換に関して

鍵の種類には主にユーナインキーとディンプルキーがあります。MIWA U9(ユーナイン)は美和ロック株式会社の製品で、日本でもっとも普及している鍵です。鍵にMIWAの文字が刻まれた鍵で、「鍵をコピーしたい」と鍵屋に持っていけば、1分とかからずに複製される代物です。

逆にディンプルキーは、その場でコピーできません。キー面に深さや大きさの異なるくぼみがあるキーなので、鍵のコピーには凹凸のデータが必要となります。このデータの番号で鍵のメーカーに直接発注することになります。

防犯性の点から見れば後者の方が安全性が高いです。かといって、ディンプルキーにすれば安心かというと、ユーナインよりは……というレベルなのが正直なところです。まず、鍵を替えても扉が木製では意味がありません。バールで殴れば一発です。木製以上に壊しやすいガラス窓もありますけどね。

そんなことを言ってしまっては元も子もないので、地域住民と普段からコミュニケーションを密にとか、防犯カメラを設置するとか、不審者侵入を知らせる設備を整えるといった対策に打って出るのだと思います。故に、鍵はユーナインどまりなのかもしれません。現に、ディンプルキー以上のものを求める大家さんも入居者もいませんでした。

怖い話をすれば、鍵というのは外に出ている持ち主を簡単に帰宅不能にできます。実際にあった出来事ですが、あるマンションで鍵穴に木工用ボンドが入れられたことがありました。たったこれだけのことで、自分の部屋に入れなくなった入居者がいます。

引っ越しに関すること

引っ越し日が決まったら、不動産屋を通して大家さんに伝わるようにしておきましょう。そういうことにうるさい大家さんもいます。引っ越し挨拶にそばを持って、というのは昔の風習だと言っていいでしょう。地元の名産を持って挨拶をする人もいらっしゃいますが、今は何も言わずに隣に引っ越してきて、何も言わずに去っていく方が多いです。隣にどんな人が住んでいるのか知らないのも普通です。それに若い女性の場合は、自分が何処に住んでいるのか明かさない方が安全だと云えます。

新居に家具などを運ぶ前に、お約束ですが室内の写真を日付が入る形で撮っておきましょう。退去時に原状回復を求められた際、“この状態で借りました”という証明に使えます。使っている人を見たことがありませんが、撮っておいて損はないでしょう。

落ち着いたらライフラインを確保しましょう。電気・ガス・水道を使えるようにしないと暮らしていけません。どこに連絡すればいいかは、おそらく不動産屋で連絡先一覧を貰うと思うので、そちらを参考に電話してください。貰えなかったらネットで検索しましょう。ついでに、ごみの回収日とゴミ捨て場を確認しておきましょう。粗大ごみは自治体によって違いますので、お住まいの市区町村のサイトを見るのが早いでしょう。家電4品目(エアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機)とパソコンは、家電リサイクル法や資源有効利用促進法により、リサイクルが義務付けられています。パソコンの捨て方はQ&Aにて。

引っ越しに当たって賃貸住居から退去する場合は、そちらの解約手続きも必要になります。退去に関しては「アパート・マンションの去り方」に書いています。引っ越した後は役所や出張所に行き、転入手続き、国民年金・国民健康保険に加入している場合は、そちらの変更手続きをします。ついでに新たな住所の住民票を貰っておきましょう。貰うと書いていますが、お金がかかります。運転免許証を持っている場合は、新しい住民票を持って警察署に行き、免許の裏面に新住所を記入してもらいます。

次に住所登録をしているものを片っ端から変更していきます。携帯電話の明細書の送り先、ネット上で登録しているサイト、銀行を含めた各種カードの住所、生命保険の住所など、変えなくてはいけないものが山ほどあります。次に、郵便局に行って窓口に転居届を出します。これで、1年間は旧住所宛の郵便物等を、新住所に無料で転送してもらえます。確か、ネット上でも出来た気がします。もし、新居に前の住人の郵便物が届いたら、赤字で「転居しました」と書いてポストに入れます。すると前の住人の郵便物は来なくなります。ただし、クロネコヤマトのメール便などは来ます。

契約更新に関して

東京都を含め、幾つかの都道府県(北海道・長野・愛知・京都・福岡・沖縄など)で賃貸住宅の契約更新というものがあります。二年に一度、引き続き住む場合に更新料の一ヶ月分を大家さんに、半月分などを更新手数料として管理会社に支払うものです。京都では毎年契約更新があって、更新料も2ヶ月分という鬼のようなところがあると聞きます。

更新料に関しては京都地裁、大阪高裁で「更新料は消費者契約法違反」という判決が出ています。最高裁判決は平成23年7月15日に出ていますので、気になる方は調べてみてください。

この判例が出る前から、「法廷更新」しているケースがありました。借り主には住む権利が認められているので、更新料を払わないからという理由で追い出すことはできません。結果、スルーできるのですが、大家さんや不動産屋との関係は悪くなるでしょう。一度、法廷更新をすると無期限で更新料を払う必要がなくなると、借地借家法に書いてありますが、どう打って出るかはあなた次第です。定期借家契約の場合には通用しません。

家賃の値下げ交渉

値下げ交渉には材料が必要です。何年も滞納することなく払い続けているからまけてよとか、周りが空き部屋ばかりになって弱っている隙を見て交渉や、同じ間取りの部屋が値下げしているのをネットで確認して「うちだけ高い」と主張など、いろいろなやり方があります。

大家さんによっては余裕がない人もいますので、値下げ交渉に応じられる人とそうでない人がいます。大家さんだからといってお金持ちとは限りません。銀行などから融資を受けてアパートやマンションを建てている人もいます。抵当権が設定されている場合は、大家さんの頭は投資額を回収することでいっぱいかもしれません。

(根)抵当権が設定されている場合、その(根)抵当権が実行されて、競売による買受人から明渡しを求められれば、買受人が物件を取得してから6ヶ月以内に明渡さなければなりません。この場合、貸主に預けた敷金(保証金)についての精算(返還)を買受人に求めることはできません。また、買受人より明渡しを求められない場合でも、買受人より新たに賃貸借契約の締結を求められ、敷金(保証人)の預託を求められることがあります。

家賃を滞納してしまったら

1ヶ月くらいの滞納なら、まだ管理会社も余裕があります。いざとなれば敷金で相殺できるからです。ですが、滞納者が目を付けられるのは間違いありません。業界内では滞納や問題を起こした人のリストが出回っているという噂もありますので、今は平気でも次に借りる時に困るかも……。

もし、滞納してしまっても即退去を要求されることはないでしょうが、敷金で2ヶ月分支払った場合は2ヶ月以上の滞納で、“正常な契約状態にない”と見なされても文句は言えません。

何処までも滞納を続けた場合、入居者の追い出しを貸し主側は考えるようになります。最悪の手段として、入居者が外出時に鍵を替えるというのがあります。滞納者はお金を払わない不法占拠者だから、中に入られないようにするというものです。

ただ、強引にやりすぎて事件になったケースもありますし、これは法的にはマズイ処置になります。居住権(既住権)はとても強力な権利ですので、裁判沙汰になったら貸し主側は負けるでしょう。なので、弁護士に依頼して法的な措置を執るという選択肢もありますが、こちらはお金と時間の浪費が凄まじく、選択肢に入れられないことも珍しくありません。仮に法的に支払いが命じられても、それまでのコストがかかりすぎるので、元を取るには遅延損害金も取らないといけません。また、法的な手段を講じて内容証明等を郵送しても、受け取られないために何も出来ない可能性もあります。

そこまでしなくても、保証人になっている親御さんに電話をされると、あれやこれや屁理屈をこねる滞納者も支払うものです。入居者はなだめてすかして、訴えられないようにしながら、取れる分だけでも取っていくのが不動産屋のやり方です。ちなみに、払っていないと電気・ガス・水道も止まります。最後に止まるのは水道です。

近隣住民の問題~騒音トラブル例~

隣の部屋の住民がうるさいといったクレームは、当の本人ではなく管理会社に言いましょう。管理会社は面倒くさがりますが、当事者同士でぶつかり合うと、相手が悪ければ事件沙汰になりかねません。昨今ニュースで見る騒音が原因で隣人を刺したとか、そういった類の事件に。

管理会社の対応としては、苦情元を明かさずにやんわり伝える。もしくは、全員に対して「騒音トラブル」についての注意文のようなものを投函するといった方法があります。それでダメなら警察に相談してみましょう。おそらく、「民事不介入です」と言われるか、適当に扱われるかと思いますが、たまに何かしてくれる人もいます。

騒音に関して法的な対処を取るとするなら、騒音と断定するにあたって証拠となるものが必要になります。裁判所では真っ白な状態から裁判が始まるので、いくら口頭で「うるさい」と言っても仕方ありません。騒音であることを証明するには、ホンを測定したり、音自体を録音したりするという作業が必要になります。

次に、測定したとしても、いわゆる普通に生活する権利的なものがあるので、騒音が音楽であった場合は、普通に音楽を聴いているレベルよりもボリュームが高いか低いかという問題になります。

ここで、騒音だと捉えられても、高いボリュームで鳴らしている騒音主に責任があるのか、それとも建物の構造に問題があるのかということになります。後者の場合、安普請で家賃も大したことがないのなら、安かろう悪かろうということで相手にされません。そうでない場合は、大家さん側に防音対策を講じる義務が生じます。

仮に煩雑な手続きを経て、騒音主に原因があるとされた場合でも、静かにするようにといった勧告がされますが、それには強制力がまったくといっていいほどありません。何らかの請求があっても、無視出来る程度のものでしかないです。刑事事件に発展するには、精神に異常をきたしたといったような、傷害罪として立件するほかにありません。

「アパート・マンションの去り方」に続きます。