不動産会社の選び方 ~アパート・マンション~

アパート・マンションの選び方について語る前に、不動産会社のお仕事について書いていきます。普通、こういうサイトでは選ぶときの要点だけ書かれていることが多いですが、貸す側の事情を知った方が、後々になって得をする気がしますので書ける範囲で書いています。

私が勤務していたのは都内某所にある地元の不動産会社で、いわゆる全国展開しているチェーン店ではなく、その地域に数店舗を構えているようなところでした。地元の不動産会社ということで管理物件も多く、客付け業者からの物件確認の電話が毎日かかってきました。

客付け業者と元付け業者の違い

平たく言えば、大家さんと直接繋がっているのが元付け業者で、そうでないのが客付け業者です。この不動産会社だから元付け業者というのではなく、その不動産会社が物件に対してどうなのかということになります。賃貸契約を結んだ際に払うお金は、初月の家賃、敷金・礼金、仲介手数料などがありますが、客付け業者が貰えるのは仲介手数料の何割かになります。安い仲介手数料を謳い、別の名目でむしり取る客付け業者もいますが……。

対して、元付け業者は物件が決まると仲介手数料のほかに、業務委託料を大家さんから頂くことになります。家賃の一ヶ月分くらいが相場でした。こういう物件は元付け業者にとって、管理物件であることが大半です。余談ですが、『賃貸仲介料は本当に「家賃1カ月分」が必要か』という記事があります。

不動産会社の選び方 ~管理物件~

管理物件は大家さんから物件を預かっているようなものです。物件の紹介からメンテナンスまで請け負う代わりに、管理手数料として家賃収入の数%を貰います。この管理手数料は3~5%が多かったと記憶しています。中には固定額で借り上げている場合もありました。大家さんとしては、面倒な作業を管理会社に一任し、家賃収入だけもらっていられる利点があります。管理会社としては、他業者が入居を決めたとしても、そこから収益が得られるメリットがあります。

例えば、都内の場合だと二年に一回の契約更新時の更新手数料(定期借家でなければ)、先述の管理手数料、リフォーム業も請け負っている場合は入居者が退出した後のハウスクリーニングなどの費用も収入になります。細かいところでは鍵交換も収入源です。交換費用が15,000円だとしたら、MIWA製のシリンダー代は4,000円程度なので、1万円弱は不動産会社の利益となります。鍵のシリンダー交換自体は、ドライバーさえあれば誰でもできますが、物件は大家さんの持ち物なので、入居者が勝手に鍵を交換するのはNGです。

仲介手数料だけで終わる客付け業者と違い、物件を管理している不動産会社(多くの場合、元付け業者)は、入居後も入居者が物件に支払うお金の何割かを貰うわけです。つまりは、契約を決めても仲介手数料しか収入がない客付け業者と、仲介手数料と業務委託料、さらには今後の管理手数料などの収入がある元付け業者とでは、入居してほしいという気持ちも割り引ける余裕も違うことになります。同じ物件を契約するなら、管理会社(元付け業者)ということになります。

どこが元付け業者なのかは物件を見れば一目瞭然です。物件には“管理会社○○”という看板が貼ってありますので、その○○が管理会社ということになります。また、客付け業者はアパートやマンションの鍵を持っていませんので、案内するときには管理会社に借りに行くことになります。前もって借りておいたり、管理会社から遠い物件の場合は現地のキーボックスに入っていることもあります。また、客付け業者の多くは図面を作成していませんので、元付け業者に電話して取り寄せています。この図面には元付け業者名が概要欄に書かれているのですが、ここを隠してコピーする業者もいるので油断できません。何にせよ、物件の空き状況を把握しているのは管理会社だけです。

物件の紹介は大家さんから依頼されて初めて可能になります。管理物件は管理会社が宣伝する権利を持っていますので、自社経由で決めない限りは決まらない物件になります。「この物件、空いてますよ」と他の不動産業者に伝えて、案内してもらうこともできますが、契約自体は管理会社で行うことになります。

不動産会社の日々の業務

物件の宣伝は現場を見ることから始まりますが、次に図面の作成や各賃貸サイトへの登録、賃貸管理ソフトを使っているところはデータ入力、新しい管理物件の場合は物件に“管理会社○○”と自社の看板を貼るといった業務があります。賃貸サイトはアットホーム[athome]、HOME'S、そしてレインズ[Real Estate Information Network System]などに登録します。魅力的な物件を入居者がいるにも関わらずに登録し、いわゆる「釣り物件」にした場合はペナルティーを受けます。「おとり広告」に関しては、エイブルが排除命令を受けたことがあります。エイブルとミニミニの業務停止命令は、仲介手数料の取り過ぎです。ちなみに、ネット不動産サービス「ノマド」には、釣り物件[オトリ]を見極める空室チェック機能があります。

もっとも目にする不動産会社の仕事は、物件の案内だと思います。お客さんを連れて物件を見て回り、あれやこれやと解説します。長いこと空いている管理物件を案内しているときは、必要以上に饒舌になっているかもしれません。長いこと決められないでいると、大家さんから「管理を他に……」と言われかねないからです。もちろん、管理手数料のこともあります。管理物件は毎月の収入とイコールですので、手放すわけにはいきません。逆に言えば、管理を取るのは大きな仕事の一つです。

管理を取ったら取ったで、入居者からのクレームや住民トラブルの解決、よく切れるグローランプの交換、退去時の敷金返金額の問題、リフォーム費用の問題、契約更新資料の作成、家賃の回収と滞納者への対応(回収できない場合は立て替え。滞納3ヶ月分くらいまで)、毎月の大家さんへの管理報告書の作成などの業務が発生します。他にも、入居者や大家さんに訴えられて法廷に立ったり、物件内で亡くなった入居者を何とかしたり、入居者が犯罪者となったときに警察に協力したり、大家さんに「早くボロアパートの空き部屋に入居者を入れろ」と毎日言われたり、入居者の外人が強制送還されたりと、精神的にまいるような仕事もあります。日中不在の入居者に代わってガス点検などに立会い、汚部屋を軽く整理することもあるかもしれません。

“家賃の回収と滞納者への対応”と書きましたが、アプラスや日本セーフティーを利用した場合は、そこが家賃の回収を代行します。この二社に関してはQ&Aの方に詳しく書いてあります。他には、入ってきたマイソクをチェックしたり、店舗のガラスに図面を貼ったり、登録している賃貸サイトののぼりを立てたり、新築物件の賃料案を大家さんに提出したりといったことをしています。忙しくなるのは12月辺りからで、引っ越しシーズンの3月と4月は不人気の物件も決まっていきます。ここで決まらないと不人気物件は、また一年チャンスを待つことになります。なので、シーズン中に決まらなかった不人気物件は、シーズン後に値下げ交渉に応じてもらいやすいです。

アパート・マンションの選び方

本題に入ります。今までの流れから、アパート&マンション選び以前に、不動産会社の選び方は理解して頂けたものかと思います。管理会社の方が交渉の余地があるよ、という話です。では、どんな物件が良いのかということになると、人それぞれ優先するところが違いますので、良い物件も人の数だけあると言えます。

なので、まず自分が何を優先しているのかを明確にすべきです。家賃、日当たり、間取り、周囲の環境、構造、利便性、遮音性、ペットの可否、楽器の可否、外人の可否、子供・高齢者の可否、他の住民、防犯面等々。全部が完璧という物件は無いと思って間違いありませんから、妥協できないポイントを3点まで絞ってネットなり現地なりで探します。ただ、地元の不動産会社さんの中には、ネット登録をしていないところも少なくないです。特に大学近辺の不動産会社の場合、大学経由で紹介して入居者を確保しているので、そこまでする必要がないのかもしれません。

基本的なことを書くなら、賃料は月収の1/3以下でないと大家さんが契約に難色を示します。払えるのか不安だからですが、1/3より上だと家賃が生活を圧迫しますので、そのくらいの金額を目安に考えた方が無難です。東京都内で暮らすなら、大雑把にいえば“山手線の北と東”が相場的に安いです。これはフォレント[2009年10月]の情報です。細かい情報は「家賃の相場と利便性で見るランキング ~東京都編~」でご確認ください。ただ、治安が悪いところもあるので、地名と治安で検索しておきましょう。

遮音性は壁が同じような条件なら、木造よりもRC(鉄筋コンクリート)・SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)の方が上です。アパートとマンションの違いに関して、国が明確に決めているわけではありませんが、構造的に木造・軽量鉄骨はアパート、RC・SRCがマンションの場合が多いです。間取りに関してはQ&Aで説明しています。

ペット、楽器、外人、子供・高齢者に関しては、大家さんがNGを出しているケースが多いので条件確認が必須です。ペットは建物が傷つく、鳴き声がうるさい、他の住民への配慮などが主なNG理由です。ペット可の物件を借りるにしても、敷金のうち数ヶ月分は償却と書かれていることが多いです。これはペットによって住居が傷つくので、退去後の修復費用として当てますよという話です。そのくらいペットは細かな傷をつけてくれます。特にトイレなど……。

楽器は騒音NG、子供も似たような理由でNGのことが多いです。外人は保証人が海外だと滞納した場合に回収できないことや、日本人の保証人でもバイト先の店長なんかだと支払いに応じないためです。まぁ、最たる理由は問題を起こしやすいというものです。ワンルーム、1Kは間違いなく一人用の物件で、入居者一人で契約しているはずですが、「私の国では部屋を借りたら何人でも住めるのが常識アルヨ」という人は、信じられないくらい住人を増やします。挙句の果てに、就労ビザなしで働きに来ていて強制送還されて家賃を取り逃します。火力重視の油料理がメインだと、キッチン周りがベトベトでハウスクリーニング費用がかさみます。

老人は収入が年金のみで支払いに関して不安、保証人もご年配になるケースが多いので、滞納した際に保証人が他界していて催促できないといった理由がありますが、最たるものは住居で亡くなる可能性が高いことです。万が一、亡くなってしまった場合は事故物件になるので、物件の価値が下がってしまいます。そんなリスクを負ってまで貸したくはないのです。大家さんも商売ですから。

見るべき物件が決まったら、不動産会社に行って案内してもらいましょう。カメラやメジャーを持っていって、あれこれ測ったり撮ったりするのもいいでしょうし、ビー玉を転がして傾斜を見てもいいでしょう。ハウスクリーニング済みかどうかを確認したり、洗濯機置き場や冷蔵庫置き場の面積を確認してもいいです。気になる点は写真に撮って交渉材料にしてもいいですし、設置してあるエアコンや水道を試したり、近所のスーパーを見たり、最寄駅を確認したりするのも大切です。周辺施設を見て回るのが面倒な人は、住所パワー(詳細はQ&Aにて)やgoogle map ストリートビューで見てみるのもいいでしょう。ネットをやりたい人はその辺のことは忘れてはダメですし、消防法で義務になっている火災報知器の有無も大事ですね。石綿(アスベスト)を使用した形跡の有無とか、1981年6月1日以前に建てられた物件は、建築基準法施行令の改正によって新しい耐震基準(いわゆる新耐震基準)が施行される前ですので、耐震診断の内容を知りたいところです。風俗店が近くにあるのは嫌だというのでしたら、官公庁施設や学校・図書館・児童福祉施設から半径200m以内を探すと良いです。風適法第28条の定めによって、新たに店舗型性風俗関連特殊営業を行うことは禁止されています。ただし、不遡及の原則というものがあります。

先のようなことは他サイトでよく書かれていることですので、どこかで聴いたような気がするかもしれません。でも実際、現地に行ってみると直感で決めてしまう人が少なくありません。そんなものだ、と思って準備するのが良いかもしれません。本当のところ、住んでみて初めてわかることの方が多いのですから。住居環境は平日・土日で違いますし、朝・昼・夜でも違います。季節でも違いますし、天気でも大きく違うので、すべてをチェックする頃には他の入居者が契約しています。なので、シーズン中は特に他のお客さんを意識して、ほどほどの物件チェックにしておきましょう。

最後に、地方から首都圏に来られる方に向けての話になりますが、大学や職場に通うために引っ越す場合は、住居から目的地までの直線上の距離ではなく、どの沿線を使うのかを考えた上で決めた方が良いです。車通勤・通学なら別ですが、地下鉄やJRなどを利用する場合、乗り換えも含めて通いやすい駅の近くが良いです。ただ、中央線はよく人身事故などで止まりますし、電車によっては止まらない駅もあります。地下鉄と一口に言っても、都営線と東京メトロでは運営元が違うので、両者を使うと高くつきます。ついでに、大江戸線は地下深くにホームがあるので、地下鉄出口が家から近いからと安心はできません。車を利用する場合は駐車場代の高さにうんざりする覚悟をしてください。地方では考えられない値段です。

物件が決まったら、次は賃貸契約になります。続きは「借り方」で。